いんてりっぽくなりたいブログ

いんてりっぽくなりたい筆者がそれなりに頑張るブログです。

an incoherent mess? イギリス憲法の問題点

 

こんにちは

イギリス政治の期末試験を終えただいこん(仮)です。

 

よく考えたら、イギリス人と同じ時間で同じ量の記述試験を受けるって過酷ですね。

一番困ったのが、スペルが思い出せんっていうことでしたから。(笑)

今日は、この地獄のようなテストについて書きたいと思います。

 

f:id:wannabeintelligent:20190530054101j:plain

テスト勉強の残骸 ①

 

 

試験範囲

まず、今回の試験で最も苦しんだのが、テスト範囲というものがないということです。

担当教授は最後の授業でこういいました。

「授業内容の復習なんか無駄やでぇ。そんなとこから出さんから。」

僕 : ん?

 

そう、イギリス政治の膨大な量をわずか2時間の授業が10回という時間で扱うため、授業内容は浅く広くなのです。

そのため、自力で各トピックに関して勉強を進めていく必要があります。

 

そう言われても、レジュメを覚えて乗り切るという技が身についている僕には、どうしたらいいのかさっぱりです。

しかし、問題形式が分かっていたので、救われました。

 

問題形式

問題形式は、10問ある中から2つ好きなものを回答してよいというものでした。

この10問というのは、各授業から関連する事柄を問題にするということです。

なので、10個のトピックのうち2つについてプロフェッショナルになればいいのです。

 

そして、僕が回答したものの一つが、

'The British Constitution is now an incoherent mess' Discuss. 

というものでした。

要するに、イギリス憲法は一貫性のないめちゃくちゃなやつだ、という主張が妥当かどうかを議論せよってことですね。

 

そして僕のたどり着いた結論が、

その通り、めちゃくちゃである!です。

どうしてこのような結論に至ったかを以下説明します。

 

国民投票

今回、僕は3つの論点を挙げました。

国民投票、権限移譲、貴族院改革です。順番に見ていきます。

 

イギリスでは、伝統的に国民(住民)投票の実施は違憲であるとされていました。

なぜかというと、国民投票が議会主権の原則に反すると考えられていたからです。この点は少し説明が必要かもしれません。

一見すると国会議員も選挙で選ばれているのだから、べつに国民投票であってもそんなに変わらないでしょうといえそうです。

 

しかし、イギリス議会の歴史は、選挙の歴史よりも長いのです。

国民の20パーセントに投票権が付与されるようになったのが、1832年*1

21歳以上の男性と、大半の30歳以上の女性に選挙権が付与されるのは、1918年になってからです。*2

つまり、国民が議員の選定に関与するようになるほうが、議会主権の成立よりも遅いのです。よって、国民による選挙をいう手続きを踏んでいようといなかろうと、イギリス議会は、すきなように法律を作ることができるのです。

 

要するに、何よりも権威があるのは、議会なのです。

すると、その議会を拘束するようなものがあってはなりません。

ゆえに、国民投票違憲であると考えられていました。

 

しかし、あるとき気付きました。

議会主権ってことは、議会は何でもできる。

なんでもできるってころは、議会主権を修正して国民投票を認めることもできると。

そして、1970年代に初の国民投票が実施されます。

(これがなんと、ECに残留するかどうかについてなのですが)

 

そのあと、イギリス政府は国民投票を非常に多くの場面において採用しています。

しかし、ここに問題があったのです。

何かというと、なんとなく国民投票をできるようにしてしまったため、

どのような場面で、どんな手続きにのっとって実施するべきかを定めていなかったのです。

その結果、国民投票は非常にプラグマティックな手段として利用されます。

たとえば、2016年のBrexitをめぐる国民投票

これは、当時のキャメロン首相が、EU問題をめぐって意見が対立している保守党を、国民投票の結果を武器にまとめようという意図があったといわれています。

国民が望んでいたというよりも、党内の対立を抑えたかったのです。

(結局キャメロンさんが思ってたのと逆の結果になるわけですが)

 

そもそも国民投票憲法上の根本的な部分を改革するようなときに使われるべきものです。

その国民投票が、特にルールもなく与党が好きなように始めることができるという状況が、イギリス憲法をどんどんややこしくしていくのです。

先週くらいに、メイ首相が2度目の国民投票の可能性について言及していましたが、手続きについて規定がないので、

「困ったら国民投票!」という姿勢があるのでしょう。

このままでは、さらにややこしい憲法になるかもしれません。

 

権限移譲

これは、前回にBrexitの闇について書きましたので、非常に簡単に書きます。

wannabeintelligent.hatenablog.com

 

90年代に、与党労働党は、スコットランド及びウェールズへの権限移譲を行います。

その後、スコットランドウェールズの権限は拡大し、

現在は、法律で除外されている事項(外交とか)を除いて、多くの分野における立法権を有します。

しかし、この権限の委譲も最終的なゴールがないままに行われています。

どういうことか。

そう、イングランドだけ議会がないんです。

 

ロンドンのウエストミンスターにある議会は

グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の議会です。

じゃあ、イングランドの福祉政策とか、教育制度とかはどこが決まるかというと、

グレートブリテン及び北アイルランド連合王国の議会です。

 

そうイングランドだけ議会がないんです。(2回目)

この点でイギリスは連邦制と異なります。

しかし、イギリス議会は通常スコットランドの教育制度に介入できないため、単一国家とも言えません。

このようなアシンメトリーな状況を生んでいます。

 

実際に困ることはあるのか、という声が聞こえてきますが

一番この奇妙な構造が影響してくるのが予算。

 

基本的に各地方に渡される予算は、イングランドの支出に基づいて計算されます。

ということは、イングランドで公的支出を削減した場合、

同時にスコットランドへ割り当てる予算も減ることになります。

つまり、スコットランド議会は、イングランドの政策に影響されるのです。

 

じゃあ、イングランド議会をつくって連邦制にすればいいじゃないか。

そのような議論があったようですが、イングランドにイギリス人口の8割以上が住んでいるのが現状です。

さすがに連邦制をとるにはアンバランスです。

 

じゃあ、イングランドを分割しようという提案もありましたが、

2004年にイングランド北東部に議会をつくるかどうかに関して住民投票を実施し、

大差で否決されます。

まぁ、無理でしょう。

 

そんなことで、地方との関係が複雑である中、Brexitが話をさらにややこしくするのです。

恐ろしい話ですね。

 

貴族院改革

貴族院って聞くと、とてもイギリスっぽいですね。

しかし、ブレア政権(またお前か)が改革を実施します。

 

貴族院という名前が表すように、議員という身分を世襲制で受け継いでいる議員が多く存在していました。

そんな非民主的な要素があっていいのかと感じるかもしれません。

しかし、20世紀に入ってからは貴族院も自らの正当性が弱いことを自覚し、基本的に与党がマニフェストに盛り込んでいた政策については反対しないというルールを確立します。

そのため現実的に、大きく立法を阻害するようなことはほぼなかったのです。

 

しかし、ブレア政権は世襲議員を92人残して、他をすべて廃止しました。

そして、現在は、どこの政党の議員も議会で過半数をとるようなことがないように調整されています。

基本的に庶民院の監視が役割なので、大きな問題はないでしょう。

 

ただ、ブレア政権が予期していなかったことが起こります。

貴族院がバシバシ意見を述べ始めたのです。

改革以前と比べて、貴族院庶民院を通った法案に反対する回数が増えたのです。

つまり、ブレア政権は貴族院に、庶民院に対抗する正当性を与えることになったんです。

 

貴族院の改革をめぐる議論は依然として続いており、

現在は、民主的に選挙で決める議員の割合をめぐって意見が一致せず、

話が進んでおりません。

どうなるんでしょうか。

 

まとめ

イギリス憲法の変化を勉強して、分かったことがあります。

憲法の役割の一つに、長期的な視点を与えるという機能がある気がするのです。

イギリスには成文憲法もありませんし、議会の過半数で自由に憲法であろうと修正できます。

しかし、ときの政権というのはどうしても短期的なメリットに目が行ってしまいます。その結果、短期的な利益のために改革をどんどんやっていくわけですが、

長期的な視点が欠けているため、後になって困るのです。

 

イギリスが今後どのようになっていくのか非常に楽しみですが、

Bogdanorさんが言うように、成文憲法を定める時期が来ているのかもしれません。*3

 

以上、僕のイギリス政治の1つ目の回答でした。

近いうちに、裁判所侮辱罪というおもしろい現象に書きたいと思います。

では、すこし休憩してきます。

 

 

 

*1:Kevin Jefferys, Politics and the People: A History of British Democracy since 1918, (2007, Atlantic Books) 10.

*2:Ibid 12

*3:Vernon Bogdanor, Beyond Brexit; Towards a British Constitution (2019 I. B. Tauris)