いんてりっぽくなりたいブログ

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イギリス議会の解散権

 

こんにちは、Brexit が延期になって楽しみを失った、だいこん(仮)です。

 

よく、交換留学生は遊んでばかりだという意見を聞きますので、

全然遊んでないことを示すためにもちゃんとした文章を書きたいと思います。

 

先月末、イギリスはBrexit の延期をめぐってゴタゴタしていました。

大学からは、ヨーロッパからの学生向けに声明が出される始末です(今年2回目)。

結局延期になりましたが、EUとの合意がイギリス議会で通るかは不透明です。

 

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BBCBrexitの報道をするときに出てくるやつ

 

このような事態が続いている最大の原因は議会の構造にあります。

現在、 House of Commons (日本語では庶民院)と呼ばれる、650議席ある下院は、与党の保守党が298議席しか確保できておらず、常に他の政党の支持がなければ法案を推し進めることができない状況にあります。

 

この状況はあまりイギリスでは想定されていません。

 議院内閣制のもとでは、選挙の結果、最多数の議席を確保した政党の党首が首相になることが想定されています。

(ちなみに内閣を表す言葉 Cabinet はあまり使われていません。最大の政党が government を構成するというような表現が多いです。)

 

この制度を19世紀にウォルター・バジョットは、イギリス憲法の 'efficient part' と表現しています。というのも、政府は議会での過半数を確保しているから、スムーズに物事が進むはずだからです。

 

しかし、今のイギリス議会の状況はそうではありません。与党である保守党の議席数は前述のように300に満たない状態です。ほかの政党の支持がなければ物事を進めることができないのです。いわゆる連立政権が必要な状態です*1

 

そんな状況であるうえ、Brexit という非常に意見が分かれる分野でのEUとの合意案の可決となると、この状況では永遠に解決できる見込みがありません。

 

そこで、ボリス・ジョンソン首相は総選挙の実施を求めていたのです。

 

 

総選挙の実施にも問題があります。

2011年に当時のキャメロン首相は、議会任期固定法を成立させます。この法律以前は、法律上は国王(女王)に解散権があるとされており、実際には首相の権限となっていました。つまり、首相が好きなタイミングで議会の解散をすることができました。

しかし、この議会任期固定法により、総選挙が5年に一度実施されることが定められます。

 

法律で定められた総選挙の時期よりも早い選挙の実施をするためには、議会での3分の2の賛成が必要となりました。このほかには、日本でもそうですが、内閣不信任決議というものを、議会の過半数で可決することで解散することができます。

 

前回の総選挙は2017年に実施されましたが、このときの議会の解散は議会で3分の2の賛成を確保し、議会任期固定法の手続きに則って実施されました。ですので、次回の選挙は2022年に実施されることが予定されていました。

 

 

ジョンソン首相は、現在の議会の状況からBrexitが困難であることを理由に、議会を解散して総選挙を実施することを求めていました。そして、議会任期固定法の手続きに則り、3分の2の賛成を得たうえで総選挙を推し進めようとしますが、3回失敗しています。

 

そこで新たな手法に出ます。

議会解散についての特別法を作るのです。

それが  the Early Parliamentary General Election Act 2019 *2です。とてもシンプルな法律で、次の選挙は2019年12月12日に実施します、とだけ言っている法律です。そして、この日を議会任期固定法が定めている選挙実施日の決め方によって定められた日にします、といってます。

 

これは新しい法律です。

よって、過半数の賛成で足ります。

 そう、議会任期固定法の手続きを経ることなく、総選挙を実施するのです。

簡潔にいうと、議会任期固定法っていうのも存在するけど、今回は12月12日に選挙するよっていう法律です。

繰り返しますが、新たな法案ですので3分の2ではなく、過半数で十分となります*3

 

これがイギリスなのです。

たとえば、コメントが一つしかないので避けたかったのですが、

英議会「12月の総選挙」否決 EU離脱巡り首相が提案(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース

このヤフーで見つけた記事のコメント欄をみると、議会固定法が愚策だといわれていますが、このコメントはイギリス法を理解していないコメントです。

イギリスでは「過半数に従う」というのが絶対的なルールです。極端な話、3分の2の賛成なんて集まらなくても、この議会任期固定法を廃止する法律を過半数の賛成で定めることができます。

 

2019年の総選挙実施が法律により可能になったことから明らかなように、議会任期固定法は、首相の解散権を過半数の賛成が最低限必要という条件を付けたにすぎません。

これがイギリスです。

もちろん反対の声もあって、 この法案が議会を通った直後に、point of order といって、法案についてコメントというか質問というかをする時間があるのですが、そこで名前は聞き取れませんでしたが、ある議員の方が法案を議会任期固定法を無視(overrideをうまく訳せません)する結果になり、チェックアンドバランスが機能しなくなると批判しています。

とりあえず、この国では過半数を確保することが大切です。

 

ちょうど今からこのトピックについてちゃんと勉強するので、誤りがあれば後に訂正します(笑)。

とにかく、僕はこんな国で法律を勉強しています。いろいろ意味が分かりません。

これは別の機会に書きたいと思いますが、今週は public という言葉の意味に悩まされました。

こんな感じで、よくわからない法律を勉強しているので、ちゃんと勉強をしている交換留学の学生もいることを覚えておいてください(笑)。

 

 もし興味がありましたら、この本が参考になるかと思います。

 


The Changing Constitution

 

 

 

 

 

 

*1:奇妙な話ですが、最大政党の党首を首相にしなければならないという法律は存在しません。そのため、法的には女王が労働党の党首(極端な話、党首以外でも)を首相にすることは法的には可能です。そんなことしないだけです。どこで読んだのか覚えていませんが、20世紀まで、首相の選任に介入しようとしていたことがあったようです。

*2:https://publications.parliament.uk/pa/bills/lbill/2019-2020/0043/20043.pdf

*3:議会では438票の賛成を得たので、3分の2に達してるのですが。